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ああ、このお話もまた悲恋なのね。
可哀想だけど、諦めるしかないわ。あなたも知っているでしょう?
全部、仕方がないの。
彼は起点から異端に侵されていた。彼を救う手立てなどないのよ。
その点では、最後に自我を取り戻したこの結末はましなほう。


あら、どうして怒るの?
もしかして、貴族と共に異端として生きるお話のほうが好みだったかしら。
その話なら、あっちの子たちに聞くといいわ。
とってもくわしく教えてくれるわよ。


いやだわ、今度は泣くの?
ここで泣いても、誰も助けてあげないわよ。
劇の終わった今、あなたは一観客に過ぎない。
感情移入するだけの価値がないもの。


さあ、そこに座って、次の役者を待ちましょう。
次はどんな歌劇になるのかしら。楽しみだわ。


もう、わかったわよね。
繰り返される運命は演目に過ぎない。
主人公は永遠に輪廻から抜け出せない。


主演はもちろん決まっている。いつだって一緒よ。
見なさい、幕が上がるわ。今こそ拍手で迎えましょう。


――また、次のあなたが生まれるわ。


ヴィクトル「なんで俺までついて行かなきゃなんねえんだよ」
メアリ「そんなこと言わないの。久しぶりなんだから」
渋るヴィクトルを家から引っ張り出し、村の入り口まで連れてくる。
嫌だ面倒だと言いつつも、抵抗しないのは素直じゃない証だ。
ヴィクトル「たった数年だろ」
メアリ「数年じゃないわ、8年よ! その数年でヴィクトルなんてこんなに大きくなったのに」
ヴィクトル「お前、絶対根に持ってるだろ」
背中から陽光を浴びて、私たちの影が二つ並んでいる。
ヴィクトルが私の身長を追い抜いたのは随分と前だが、当時の私にはそれがくやしかったものだ。


メアリ「私たちいつも一緒だったでしょう。彼だってあなたも一緒のほうがうれしいに決まってるわ」
ヴィクトル「どうだかな」
ヴィクトル「むしろうれしいのはお前だろ。さっきからおかしな顔してるぞ」
メアリ「えっ、私おかしいのかな。久しぶりに会って変な顔って思われたらどうしよう!」
ヴィクトル「ああ、いや……そういう意味じゃねえけど」
ヴィクトル「変っつーか、妙な顔っつーか」
ヴィクトル「あー、だから……おかしな顔だが、平気だ」
メアリ「それは全然平気じゃないわ!」
焦って鏡を探す私に、ヴィクトルはよくわからないフォローを続けた。
変な顔と表現した本人が気にするな、となだめようとするのもまたずれた話だけども。


メアリ「……ごめんなさい。私どうにも緊張してるみたい」
ヴィクトル「だろうな」
後ろに見たまんまだ、とつけ加えられた。
メアリ「だって仕方ないじゃない。ヴィクトルだって同じでしょう?」
ヴィクトル「俺は別に」
メアリ「どうして? 首都に留学していた幼なじみがようやく帰ってくるのよ。
知らせを聞いた時すごくうれしくて、昨日の夜なんてなかなか眠れなくて……子供みたいよね。
胸がドキドキするのよ。再会したら初めになんて言おうか悩んでるの。
久しぶり、かな。それともやっぱりおかえり、かな?
だって8年ぶりなの、8年も。その間手紙しかやりとりしてないわ。
それも一ヶ月に2通もあればいいところだった。
手紙では何度も会いたいって書いたけど、いざ目の前に来たら、私ちゃんと話せるかどうか……」
メアリ「ねえ、聞いてるの? ヴィクトル、ヴィクトルってば――」


オーギュスト「ヴィクトル、彼女が呼んでるよ」
メアリ「あ、あれ……?」
ヴィクトル「ああ、お前が鈍いってことはよくわかった」
溜め息を吐き悪態をつくヴィクトルの隣にいる男性。
私より頭ひとつ近く高いその顔をおそるおそる見上げる。
深緑の色をした髪と、眼鏡の奥に見える錆色の暖かい瞳。
背格好が変わっても、彼の纏う雰囲気はなにひとつ変わっていない。
数年間私が待ち望んだ、この瞬間が――


メアリ「オーギュスト!」
オーギュスト「おっと」
ヴィクトル「なっ!」


メアリ「おかえりなさい、オーギュスト!」


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3章 「永劫回帰 ―Ewig Wiederkehren―」 END
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KUNSTBLUME END 


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