ヴィクトル「さっきから立ち止まってばっかじゃねえか。怖いのかよ」
オーギュスト「慎重にもなるよ、途中どんな発見があるかもわからないんだ。
やはり未知への探究心が、進歩をうながして……」
ヴィクトル「あーっ、もういい! 難しいことはわかんねえ。さっさと行こうぜ」
メアリ「待ってヴィクトル! きゃあっ」
ヴィクトル「おい、ちゃんと前見て歩けよ」
オーギュスト「けがはないかい? ほら、手を貸して」
メアリ「ありがとう」
オーギュスト「少し暗くなってきたね。はぐれないよう、手をつないで行こう」
メアリ「うん」
ヴィクトル「なんだよ、お前ら。……ふん、やっぱり怖いんじゃねえか」
メアリ「ヴィクトル」
ヴィクトル「な、なんだよ」
メアリ「ヴィクトルも危ないよ。手、つなごう?」
ヴィクトル「…………」
ヴィクトル「……お、おう」
メアリ「ふふ」
それから二人に護られるようにして目的地を目指す。
右手はヴィクトル。緊張しているのかちょっと熱い。
左手はオーギュスト。私より大きい手がやさしく包んでくれている。
私は二人の顔を交互に見やった。
ヴィクトル「なんだよ」
オーギュスト「どうかしたのかい?」
メアリ「なんでもないよ。今はまだひみつ」
ヴィクトル「……変なやつ」
オーギュスト「なんだろう、気になるな」
メアリ「だめよ。オーギュストでも、ひみつはひみつ」
オーギュスト「それは残念」
メアリ「きっとすぐにわかるよ」
あと少しの辛抱だから。
領主様のお城についたら、おしえてあげる。
だから覚悟しておいてね。
私が二人をどれだけ大好きか、どれだけ大切かってこと。
次第に近づいてきたお城を見上げれば、私たちの気分もいよいよ最高潮になる。
今にも駆け出したいと逸る気持ちを抑え、私はぎゅっと両の手を握った。
走ったらだめよね。
私が転んだら、今度は二人まで一緒にこけちゃうもの。
だから、ね?
ヴィクトル。オーギュスト。
私の大切な二人。
――ずっと、この手を離さないでね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
メアリ「な、なにっ!?」
ようやくお城にたどり着こうとしたその手前、私たちは異端に襲われた。
黒い影が意思を持ったように動き、私たちを捕らえようとしていた。
オーギュスト「メアリ、逃げるんだ!」
オーギュスト「こうなったらせめて君だけでも」
ヴィクトル「お前だけでも逃げろっ」
メアリ「いやだよ、二人を置いていけない!」
メアリ「ヴィクトル、オーギュスト!」
重なる悲鳴。
初めにヴィクトルが飲み込まれ、すぐにオーギュストも影に囚われた。
オーギュスト「メアリ、早く……っ!」
メアリ「や、やだよ。オーギュスト……っ、一緒に行こうよ」
その身を侵食する影に耐えながら、オーギュストは必死に訴えた。
足が震える。歯がかちかちと鳴ってうまくしゃべれない。
メアリ「やだ……」
ヴィクトルはどこに行ったの?
さっきまで一緒に手を繋いでいたのに、私を置いてどこに行ったの?
私の盾となった友人は、影に飲み込まれ消えてしまった。
メアリ「いやだよ……」
――彼も、オーギュストも、いなくなるの?
メアリ「やめて、オーギュストを離してよ……っ!」
オーギュスト「こっちに来ちゃだめだ!」
メアリ「いやっ!」
聞き分けのない子だと怒ってくれていい。お願いだから、そんな悲しい顔をしないで。
領主様のお城なんてどうでもいい。
わがままだって言わないし、明日からはいい子にするから。
メアリ「手を、手を伸ばしてオーギュスト!」
だって、ひとりじゃ意味がないんだもの。
オーギュスト「……っ、メアリ……っ!」
体のほとんどを影に飲み込まれながら、オーギュストが手を伸ばす。
あなたを助けたい。あなたを失いたくない。
あなたが消えてしまったら、すべて意味がなくなってしまうから。
この手を離したくないと願っていた。
永遠の絆を手に入れたかった。
だってあなたは、私の大切な――
伸ばされた指先がふれる。
メアリ「オーギュスト……っ!」
オーギュスト「メアリ……、お願いだから、私の手を――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『――ねえ、もし願いがひとつ叶うとしたら、あなたはなにを願う?』
私の願い? 決まっている。他の選択肢など考えられない。
昔からひとつだけだ。
時を止めたかった。ずっと陽だまりの中で生きていたかった。
彼らとの『永遠』を望んでいた。
朦朧とする意識の中で、必死にすがりついた。
どうかお願い神様、悪魔だっていい。
誰でもいいから、私の話を聞いて――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
???「あ、この子供たちが迷い込んで来たみたいですよ」
聞こえたのは知らない少年の声だった。
陽気な声があまりに場違いなものだから、彼が天使だったら嫌だと思った。
???「今にも魂(ゼーレ)が崩壊しそうですね。可哀想ですが諦めたほうが」
仕方がない手遅れだと嘆く少年は死刑宣告を告げようとする。
いやだ。いかないで。だれか。
私はかすれる喉で声を振り絞った。
メアリ「たすけて……」
メアリ「おねがい、だから……」
メアリ「……ふたりを、たすけて、おねがい……」
そこまで言うと、誰かにそっと頬をなでられた。
???「アルトメイデン――己をかえりみず友を優先するとは、どれほど尊く儚い花なのか」
ヴィクトルよりオーギュストより、ずっとずっと大きな手。
先ほどの少年とは別の、耳に低く心地よい声。
目はかすみ相手の顔は見えないが、赤と金色の瞳が印象的だった。
???「まだ間に合う。すぐに魂(ゼーレ)の定着を! 手伝ってくれるな、レルム」
レルム「はい、ジェラルド様!」
薄れる意識の中で聞いたのは、誰の声だったのだろうか。
3/4
>>next