――ねえ、もし願いがひとつ叶うとしたら、あなたはなにを願う?
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2章 「幼なじみ ―Eine Kindheit Freund―」
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物心ついた時から、彼は私と一緒いた。
メアリ「ねえ、オーギュスト。今日はなにをおしえてくれるの?」
隣の家に住むオーギュスト。
兄弟のいない自分にとって、年上の彼は兄のような存在だった。
メアリ「ご本を読んでくれる? それとも外に出てお花の名前をおしえてくれる?」
私はオーギュストが大好きだった。
一般にやんちゃ盛りと言える年だった彼は、年の離れた女の子と毎日遊んでくれた。
子供ながら不満も口にせず、嫌な顔も見せない。
当時はわからなかったものの、彼のやさしさに気づいたのはもう少し年を重ねてからだ。
その頃の私は、男の子が『そういうもの』なのだと思っていた。
だから驚いたのは、『彼』に出会ってから。
ヴィクトル「女なんかと遊んで楽しいのかよ」
村に住む、私と同い年の男の子。
話したことはないが、きらきらした金色の瞳が狼みたいで少し苦手だった。
オーギュスト「こんにちは、ヴィクトル」
ヴィクトル「なんだよ、答えないのか? 見た目どおり女々しいやつだな」
お花畑に行こうとしていた私たちの前に立ちはだかるヴィクトル。
じろりと睨まれると、私は怖くなってオーギュストの背中に隠れた。
ヴィクトル「ふん、これだから女は」
オーギュスト「ヴィクトル」
ヴィクトル「な、なんだよ」
眉を吊り上げてオーギュストがヴィクトルに近づく。
しがみついていた手が離され、このままけんかが始まったらどうしようと不安でいっぱいだった。
オーギュスト「ヴィクトル、なにか忘れてないかい?」
ヴィクトル「なんのことだよ」
オーギュスト「挨拶。人と会ったらまずこんにちはだよ」
ヴィクトル「……は?」
メアリ「えっと」
間の抜けた声が重なる。
しかし当の本人はいたって真剣だった。
オーギュスト「メアリ、おいで」
メアリ「う、うん」
オーギュストに呼ばれ、その背中に再び隠れる。
オーギュスト「二人とも会うのは初めて?」
メアリ「うん……、お話するのははじめて」
ヴィクトル「俺はこんなやつ知らねえ」
オーギュスト「そう、それじゃヴィクトル」
ヴィクトル「まだあるのかよ」
オーギュスト「メアリも」
メアリ「……なあに?」
オーギュスト「はい、一緒に挨拶しなさい」
メアリ「え?」
隠れていたのに前に押し出され、ヴィクトルと向き合う形になる。
メアリ「あ、あの。でも……」
ヴィクトル「…………」
まっすぐに睨まれてすごく怖い。でもオーギュストが後ろにいるので逃げられない。
どうしたら怒らないでくれるのかわからず縮こまる。
泣きそうになっていると、オーギュストが私の背中を後押しした。
オーギュスト「メアリ、自己紹介は?」
メアリ「あ、う……、うん」
メアリ「えっと、その……、私はメアリ、です。はじめまして、ヴィクトル」
ヴィクトル「なんで俺の名前知ってるんだよ!」
メアリ「だ、だって」
ヴィクトル「俺がいま言おうと思ったんだ! 先に言うなっ」
メアリ「ご、ごめんなさい」
ヴィクトル「なにあやまってるんだよ」
メアリ「……怒ってるから」
ヴィクトル「べ、別に怒ってねえよ!」
メアリ「……?」
オーギュスト「はい、よくできたね。いい子だ、メアリ」
よしよしと頭をなでられ、さっきまでの不安が嘘のように消える。
オーギュストに褒められると、いつも魔法にかかったみたいに心が弾んだ。
オーギュスト「ヴィクトルも、えらいえらい」
同じ調子でなでようとすると、ヴィクトルは動物のように逃げてしまった。
ヴィクトル「さわるなよっ」
オーギュスト「ヴィクトルは口はよくないけど本当は素直ないい子だから、仲良くするんだよ」
メアリ「う、うん」
ヴィクトル「なんだそれ勝手なこと言うな!」
メアリ「きゃっ」
大きな声を出され、私はまたオーギュストの後ろに引っ込んだ。
オーギュスト「まだ怖い?」
メアリ「……少し」
オーギュスト「もっと背筋を伸ばして、まっすぐ彼を見てごらん」
メアリ「こう?」
言われたとおりにするが、ヴィクトルは私を睨むばかりで印象は変わらない。
それどころか上目遣いになって、より鋭い眼光に変わって……。
ヴィクトル「…………」
オーギュスト「ほら、やっぱり。君のほうが大きい」
ヴィクトル「――! なんだと!」
メアリ「本当だ……」
ずっと俯いていたから気づかなかったが、しっかり立てば私のほうが身長が高かった。
オーギュスト「もう怖くないだろう?」
ヴィクトル「なに言ってるオーギュスト! 俺のが大きいに決まってる、間違いだ!」
オーギュスト「それじゃあ背伸びをやめなさい」
ヴィクトル「……ほんの数ミリ違うだけだ」
オーギュスト「男が細かいことを気にしちゃいけないよ?」
ヴィクトル「ぐぐ……」
言いくるめられ不服そうにうなっているヴィクトルと、それをなだめるオーギュスト。
やっぱりオーギュストは私の味方で、自慢のお友達だ。
頼もしい友人を誇らしく思っていると、突然ヴィクトルが私に宣言した。
ヴィクトル「お前!」
オーギュスト「お前じゃなくてメアリだろう?」
ヴィクトル「お前、メアリ! 待ってろ、次は追い抜く! 明日は俺のほうが大きいから、逃げるなよ!」
メアリ「ど、どういうこと?」
急に矛先を向けられて状況が飲み込めない。
待てと言われ、明日こそと言われても、私はどうしたらいいのか。
オーギュスト「明日も一緒に遊びたいってことじゃないかな?」
メアリ「……そうなの?」
ヴィクトル「違う、遊ばない! 遊ばないけど会いに行くから、絶対逃げるなよな!」
メアリ「え、あ、その……」
ヴィクトル「返事!」
メアリ「わ、わかった。また明日、ね?」
ヴィクトル「ふん、最初からそう言えばいいんだよ。じゃあな!」
ヴィクトルはちいさく鼻をならし、風のように駆けて行った。
目を丸くし、呆気にとられる私の肩にやさしく手が置かれた。
オーギュスト「新しい友達ができたね」
お友達、なのかな?
ヴィクトル。街に住む私と同い年の男の子。
初めて話した。
ずっと怒ってばかりだからか、耳まで赤かった。
いつも遠くから見て怖そうだなって思っていて、今日怒鳴られてやっぱり怖かった。
オーギュスト「明日は三人で遊ぼう。きっと仲良くなれるよ」
メアリ「本当……かな。仲良くできるかな」
オーギュスト「もちろん。今はぎこちなくても仕方ないよ。
だって知り合ったばかりなんだ。これからいろんなことを確かめていけばいいんだよ」
互いを知れば、必ず歩み寄れるはずだと。
オーギュスト「できるよね、メアリ」
メアリ「……うん」
オーギュストが言うなら信じられる。
彼はとっても声が大きいけど、背は私のほうが大きかった。
いろんなことを知るって、そういうことでしょう?
オーギュスト「正解。やっぱり君は優秀な生徒だね」
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それが私とヴィクトルの出会い。
私とオーギュストとヴィクトル。
傍から見れば、でこぼこでおかしな三人組。
それぞれ性格が違うのに、不思議なことに進む方向はいつも同じだった。
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