私が問えば、彼は隠すことなく罪を告白した。
数え切れないほどの命を奪いながら一人ひとり顔と名前を認識し、個人の最期の言葉まで丁寧に覚えていた。
断末魔を演劇のように再現し、笑顔で語る姿に怖気たった。


――どうとも思ってないんだわ。
彼にとって命は軽く、自身を貴族だと疑わないゆえに傲慢だ。


メアリ「……ヴィクトル」
メアリ「ねえ、ヴィクトルは、どうしたの……?」
欠けてしまった幼なじみ。
友人であり家族同然だったヴィクトルも、彼にとっては簡単に壊せる一端に過ぎないのか。
オーギュスト「…………」
貴族の演じる平等で無慈悲な歌劇に、ヴィクトルは出てこない。
幾度目かわからない質問にも変わらず、彼はこの件に関して口を噤んでいた。
メアリ「どうして、どうして答えてくれないの? ヴィクトルは……っ」
――もういないの?
本当は知りたくなんてない。
ヴィクトルはここにいない。それがすべてを物語っているのだから。
メアリ「どうして……っ」
オーギュスト「泣かないでおくれ、愛しいメアリ」
そっと背に手を回され、抱きしめられる。
ひどく体温が低い。
心臓の鼓動はわからず、代わりに胸ポケットに入れた懐中時計の音だけが聞こえた。
ヴィクトルがどうなったのか、真実を知れば今度こそ私の心は壊れてしまうだろう。
それでも――
メアリ「ヴィクトルは、あなたになんて言ったの……?」
オーギュスト「それは……」
魂(こころ)などとうに壊れたはずの彼が、わずかな戸惑いを見せる。
ある日別人のようになってしまった彼に、ヴィクトルはどうしたのか。


オーギュスト「……すまない。たとえ君でも、その質問だけは答えられない」
メアリ「どうして……っ」
オーギュスト「私は彼と約束したんだ。彼を侮辱しないためにも、わかっておくれ」
メアリ「約束……?」
オーギュスト「そうだよ」
オーギュスト「私たちの約束。幼い頃交わした誓い。君は知らないだろうけどね」
オーギュスト「ああ、ひとつだけこれだけなら言える。
あれは仕方なかったことで、すなわち運命で、 よって私は約束を果たしたまでだ。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 

これが運命。
呪いを是とし、幸福を逆しまにしたような今が運命だと?
『仕方がなかった』、そんな一言で片付けていいわけがない。
私たちが諦めてしまったら、無残に命を奪われた人々が救われない。
しかし――


メアリ「……ええ、そうね」
耐えるだけの日々は、贖罪と銘を打った立派なものじゃない。
私は神に背いた。
抱いた後悔とその逃げ道を知れば、誰からも侮蔑の目を受けるだろう。


『ごめんなさい。ごめんなさい。
私が無力だったからいけないの。止められなかった私が悪いの。
でもわかってほしいわ。
あれは仕方なかったのよ。私にはなにもできなかったの。
私も苦しいの。悲しいのよ。
だから許してちょうだい。ねえ、お願いだから。みんな――』


なんて卑しい責任転嫁。なんて醜い自己保身。
あきれてものも言えないとはこのことか。


結局のところ、私も彼と同じ。
――私も、 仕方ない 、、、、、 と思っているのだ。


オーギュスト「さあ、行こう。メアリ」
『彼』に手を引かれ、私は歩き出す。
冷え切った互いの手にぬくもりは感じられなかった。
メアリ「どこに行くの」
オーギュスト「行けばわかるよ」


不審に感じ抵抗しようとも思ったが、すぐに思いとどまる。
私は摘み取られた花。彼の所有物に過ぎない。
どこに連れて行かれようとついていくだけだ。
なにを求められようと、それに従うまでだ。
自分の意思など、とうに捨てた。
今さらどう足掻こうと、過去は変えられない。
私がなにをしようと、運命は変えられないから。


――仕方がないの。
奇跡なんて望まない。希望を持つ前から諦めている。
だって奇跡は生者だけに与えられる祝福だもの。


無人の村に差し込む日差しがやけに冷たく感じた。


私は死んでいる。
ここには誰もいない。私はここに在るだけ。
彼と、同じ。
死んでなお生き続ける異端だ。



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1章 「愛しい花 ―Eine geehrte Lilie―」 END
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