――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
部屋には白い花。
窓に、床に、机に椅子にベッドに――そして私の髪や肩や腕や足先に至るまで。
この小さな箱庭のすべてに散りばめられている。
陽の光も水も与えられない状況にあって、花々は瑞々しく美しい。
部屋はいついかなる時も毎日毎日毎日……『彼』が摘んで来る花で埋め尽くされていた。
私の眠っている間に古いものを片付け、
そして目覚める頃にはまた生き生きとした花弁が迎えてくれる。
『おはよう。気分はどうだい?』
『今日はいい天気だね。久しぶりに外に出てみようか』
声がする。何者かの声が聞こえる。
ここにはなにもない。誰もいないはずなのに。
目の前の『彼』はすでに人間ではない。
ここに居る、のではなく、在るだけ。
生命の息吹を感じられず、器に魂を内包していない。
だから、ねえ。
お願いよ。
そんな声で、そんな顔をして、私を見ないで。
『元気がないね。笑ってごらん。君には笑顔が似合うよ』
胸が詰まる。どう返していいのかわからない。
『彼』の微笑みは、まるで『彼』そのもので、
けれど決して私の知る『彼』ではなくて。
『泣いているのかい』
『可哀想に。怖いものなんてなにもない。この世のすべてから、私が君を護るよ』
ねえ、お願いだから。
もうやめて。私の大切な思い出を穢さないで。
あなたは『彼』の器を借りた悪魔。
死してなお生き続ける骸。
ああ、でもそれは、――私も同じか。
2/5
>>next